悪童の話
胸が苦しかった。
苦しくて苦しくて、その苦しみを自分しか感じていないという事実に苛立った。だから思い知らせようとした。それだけの気持ちで組み敷いた。まるきりガキの思考だった。
赤崎は心内で舌打ちをする。
頭の隅では理解していたくせに、感情は制御できなかった。ただ苦しくて、自分の心を掻き乱す相手が許せなかった。
組み敷いた体の肌には張りもなく、忍ばせた指先がしっとりと沈む。自分よりも年上の相手だと実感しながらも欲情は止まらない。
達海の、緩い襟刳りから見える鎖骨に生唾を飲み込んで、そっと唇を寄せる。強張る肉体に興奮したのは紛れも無い事実だった。同性に欲情している事実に衝撃は薄い。
相手が監督であるということの方が問題だ。
何より、それは重要な問題だった。
「……おまえ、ど……するつもりだ…?」
掠れた声に問われ、この人でも緊張したりするのかと思う。余計に体内の熱が上昇する。こちらを睨むような、けれど悲しげにも見える瞳に苦しみが増した。
この行動の根本にあるものは、反抗心なのだろう。おそらく。
苦悶を性交への行動に変換するのは容易であった。力任せにたくしあげたシャツの下に隠されてい乳首に吸い付いて、噛むようにして歯を立てた。痛みにぐっと達海の顔が強張る。
その表情を歪められただけで、赤崎はえも言われぬ優越感を抱いて苦しみが和らぐのを感じた。虚しさが底に潜む歪な感情ではあったが、不思議と空虚さは表には出なかった。もっと苦しめたいと思い、赤崎は噛んでいた乳首から口を離す。
「ふっ、痛…!」
「……乳首って、男でも感じるんスね」
にやりと笑い、今度は嬲るように乳輪に舌を這わせる。
ねっとりと生温かい感触と、胸を舐められているという事実に顔を顰めて達海はあからさまの嫌悪を示す。その表情を引きだしているのが己だという事実が、赤崎はおかしくてたまらなかった。
「んぅ、やめ、ろっ、赤崎……っ」
拒絶の言葉を口にしながらも男の欲望は情けなくも愚直で、赤崎は立ってきた乳首をゆるく噛んだ。びくんと達海の身体が震える。一回りは離れている監督が、自分の下で情けなく口端から涎を垂らしている姿は堪らなかった。
「はっ、説得力ねぇっすよ」
「ハ……ぁっ、やっ、さわんな!」
言いながら、ゆるく立ち上がり始めている性器を片手で揉む。切羽詰まった声を漏らして達海が身をよじった。
性欲の薄そうな、そういったこととは無縁そうな達海監督がズボンの下でペニスを勃起させている。それだけで赤崎は自分の欲望が鎌首をもたげるのを感じる。同性だ、監督だ、そういったことが興奮に押しやられて遠くなっていく。
そっと唇を舌で舐めた。
心の奥底に虚無感を残しながらも、赤崎は達海のベルトに手を掛けたのだった。
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