【王子にむりやりキスされるタッツミー】

 体が傾いで天を仰いだ。
 しかし天井の代わりに目に入ったのは、イタリア野郎の高い鼻。あっという前に、自分の唇は塞がれていた。
「!」
 背骨と共に反らされた喉が苦しくて、達海は両手で勢いよくジーノの頬を叩いた。キスをするとき瞳を閉じるらしい男は、その攻撃を避けられない。
 ざまあみろ!



その後の話 

 赤くなった両頬を押さえて、ジーノは盛大なしかめ面で達海を見た。
 当の達海はというと素知らぬ顔で手元のリーグチップスを口に放り込んでは、バリバリと咀嚼している。まるでさっきのキスなどなかったような態度である。ジーノは多少恨みがましい目をして口を開いた。
「……なにするの、タッツミー」
「そりゃこっちの台詞だろうが」
 唇を尖らせたジーノに眉を顰めて達海は嫌悪感を露わにした。
 ジーノはなにがいけなかったのかと小首を傾げる。まったく悪気がなさそうな様子に、達海は自分本位すぎる10番に呆れ返ってしまった。その高い鼻は飾りなのだろうか。他人を慮ることができずに伊達男とは言えない。
 ジーノを伊達男だと思ったことなど一度としてなかったけれど。
「冷たいタッツミー!でも、僕はそんなタッツミーも大好きだよ。なんといっても、簡単に靡かないところが素敵だね」
「へーへー。邪魔だからさっさと帰れ。邪魔だから」
「つれないなぁ、本当に。キスまでした仲じゃない!」
「……全三回中、二回がお前の勝手な行動による不意打ち。あとの一回は事故みたいなもんだし、カウントされないな」
 さらりと返して達海はもう一枚、ポテトチップスを口に放り込んで咀嚼する。合間に愛飲の炭酸飲料に口を付けようとしたところで、ジーノの手が上からそれを阻止した。
 不満げに唇を尖らせて見上げると、王子はなんとも意味ありげで妙に整った笑みを浮かべる。
 何がそんなにおかしいのかと思いながら問うた。
「……なんだよ、どうした吉田」
「ジーノでしょう、達海監督。……ねぇ、そんなジャンクフードばかり食べてたら太っちゃうよ?」
「お前には関係ないね」
 煩い男だと顔を逸らそうとすると、今度は優しく両頬が包み込まれる。嗚呼拒否しなければ、と思ったのに身体は動かず、ジーノの舌先がぺろりと達海の口端を舐めた。甘い吐息が漏れる。
 唇を意図的に奪わなかった男はフフッと薄気味悪いくらいの笑顔を作った。
「でもそうしたら、僕が太っちゃうじゃない?」



両思い?でも付き合ってないジノタツなイメージ