鳥籠の話

 萎えた光に照らされたベッドで男はぼうやりと身を横たえている。
 まるで一枚の絵のようだった。ミネラルウォーターを片手にした後藤は、思わず息を止めてその光景に魅入られる。
 シーツ一枚に隠された裸体を、先程まで己が掻き抱き愛していたと思うと妙な優越感が滲んだ。誰に対するとも分からぬ感情だった。もしかしたら、男自身への優越感かもしれない。
 後藤にとって、友人であり地位的には部下でもある男、達海をようやく自分の手元に留めておけるという独占欲だ。
 十年前、言葉もなく飛び去った達海がいまは自らの部屋でぐったりと、事後の余韻に浸っている。その事実がどれほど後藤を煽るかなど、当の本人は知らない。仮に知れば、あっという間に逃げてしまうだろうと予想がついた。
 達海は自由を好む。
 後藤の束縛への渇望を悟られれば、この情愛は変わってしまう。それこそ後藤の予期せぬ方向へと転がることは、同時に関係の終焉も示唆していた。達海の心は達海にしかわからない。
「……達海、水だぞ」
 ベッドへと歩み寄り、ペットボトルのミネラルウォーターを寝ている相手に差し出す。緩慢な動作でこちらを窺ってから、達海は口をぱくぱくと動かした。無声で望みを伝えてくる。その様子は餌をねだる雛のようで、後藤の父性をくすぐった。
 考えてみれば、自分はもうすぐ四十で結婚して子供がいたっておかしくはない年齢なのだ。周りから見合いだなんだを進められることすら少なくなってしまったから、もう後藤が結婚するなど無理なのかもしれない。いや、達海猛という存在がある限り、後藤は結婚などできないのだろう。
 ゆっくり、一文字ずつを形作る唇の艶めきに生唾を飲み込んで注視した。そして達海の言わんとしていることを理解した瞬間に、後藤は己の理性がちいさな雪崩を起こした音を聞いた。
 手元のミネラルウォーターを開けて口に含み、飲み下さずにそのまま寝そべった状態の達海の後頭部を押さえて半開いた口にキスをする。迎え入れるようにしていると思ったのは錯覚か、実際に達海がそれを期待しているのかはわからなかった。口移しで水が欲しいなどと言われてはいなかったからだ。
 ゴクゴクと咽喉が動く。
 達海が躊躇いなく自分が口移しで与えた水を嚥下したことに驚くとともに、口端から飲み下せなかった液体がこぼれている様にぞわりと芯が疼いた。手の掛かる子供のようなのに、どうしてか加虐心を煽られた気分になって後藤は達海の身体を隠していたシーツを勢いよく取り去った。突然のことだったが、達海は驚きもせずにただ後藤を見上げている。なにもできない幼児のような表情に堪らなくなった。
「達海……」
 呟きは霧散する。
 足を割り開かせて、太腿に唇を寄せるとびくりと震える。そんな反応が愛おしくて焦らすように殊更やさしく舌を這わす。ぺちゃぺちゃと音を立てながら愛撫を続けていると快感に敏感になっていた身体は痙攣した。その動きは、後藤には喜んでいるように見えた。