遠恋になるので
※京都に移籍する話が決まったあとくらいのゴトタツ
「別れよっか、俺たち」
「え……っ」
さらりとした口調に後藤は思わず手を止めた。こちらに背を向けた達海の表情は見えないままだ。
「……どういうことだ?」
かろうじて出た言葉は掠れていて、別れ話を切り出した相手の耳には届かなかった。
「は?なに、聞こえない」
やっと振り返る。
しかしまったく動じていない。別れよう、なんて言い出したくせに後藤が受けた動揺の半分も感じていない顔だった。
「…達海、別れたいのか?」
「うーん、そういうわけじゃないって言うか……。でも俺、遠距離とか無理だもん」
「むっ、無理って…っ!」
あんまりな理由に突っ込みもできない。ただ呆然と、平時と変わらぬ顔を見つめた。後藤の言葉に達海が唇を尖らせる。
「……じゃあ聞くけど、後藤は大丈夫なの?」
「そ、れは……」
「東京と京都ってかなり離れてるし、俺は携帯とか持ってないし。使えないし」
「………」
「黙ってちゃわかんないよ。とりあえず俺は無理だと思うってだけ」
「………嫌だ」
「は?」
ぽつりと呟いた。
またもや聞こえずに達海が聞き返すと、後藤はカッと目を見開いて詰め寄った。真剣な眼差しとともに強く掴まれた肩が痛くて、達海は顔を歪める。後藤の顔はいつになく硬く強張っていて、こわかった。
「!」
「俺はっ、移籍で離れてもお前と別れようだなんて微塵も思わない!別れたいと思ったこともないんだぞ、達海……っ!」
後藤との距離がさらに一段と近くなり、その息が熱いくらい達海の皮膚に触れた。肩が痛くて苦悶の表情をしている達海のことなど気遣えないほど真摯に、後藤は自らの主張を喚く。
普段の後藤とは違った人物が、そこには居た。
「……俺は、お前を簡単に手放せるほどやさしい男じゃないんだよ。達海」
抱きしめられる。そうして縋るように呟いた後藤に、達海は驚愕のあまり何の返事も返せなかった。
(後藤じゃ、ないみたい……)
浮かんでいた思惟のひとつひとつを、爆弾でまるごと爆発させられたみたいだった。どうしたら、達海が想像し得るだけの遠距離恋愛の大変さや辛さを相手に伝えられるか考えたが、よくわからないままに彼は恋人の背に手を回した。大きな背中は小刻みに震えていた。
「………俺、電話とか毎日しないけど」
「………いい。たまに声が聞ければ、それでいいんだ」
これから敵になる男が、達海にはなんだかかわいく思えて仕方がなかった。
途中でうわーとなって、まあそんな感じになりました。
元鞘ですね、わかります。
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